将棋には定跡以外に「直観的にここはこれ」という局面が存在します。
プロ棋士、女流棋士、奨励会員、アマ強豪なら全員手が一致する局面です。
これがこの記事でご紹介する局面の急所。
それはどのような局面なのでしょうか?
今回は全3問、主に中盤での指し手を当てて頂きます。
対象段級は初段~五段です。
有段者は脳内将棋ができることかと思いますので、
テーマ図以外は極力盤面を出さないようにしますね。
その方が実力向上への近道となります。
それでは早速やっていきましょう。
第1問 vs銀冠穴熊
まずはこの局面。
後手が△2二金と指したところ。
一見、何の変哲もない中盤戦に見えますが、すでに勝負は始まっています。
普通に指すなら▲2八玉ですが、それだと△3二金右で
次に△8六歩▲同歩△6四銀から仕掛けられてしまいます。
おまけに後手は穴熊。分が悪いですよね。
なので穴熊に組まれる前に、一勝負起こしたいところ。
私だったらこの局面に最低10分は考えます。
振り飛車を指し慣れている方なら
最初に▲5八飛が浮かぶかもしれません。
△3二金右には▲5五歩から中央突破。
普通の感覚ならこれで良いのですが、
以下、△同歩▲同銀△8六歩▲同歩(1)△7五歩
▲同歩(2)△7六歩▲6八角△6四銀(第1図)
(1)▲同角は△同飛▲同歩△6七角。
(2)▲5四歩は△7六歩▲6八角△6四銀。
第1図
先手玉が▲3九にいるために△6六角が王手になってしまうのです。
歩を1歩渡しただけでこの有様。
どう指せば良いのでしょうか?
そもそもなぜこんなに
振り飛車側が苦戦しているのかを考えましょう。
よくよく見てみれば、普通の対抗形と違って
後手の角道が止まっていないことがわかると思います。
これが原因です。後手の角の利きが強すぎるのです。
なので、その角利きをずらす手が正解となります。
正解は▲2五歩!
△同歩▲同桂△2四角で角の利きを逸らすことができます。
△4二金、△2二金型なら角は引けませんからね。
△3二金右なら▲3五歩と攻め味をさらに増やして相手に嫌みを与えていきます。
ですがここで安心していたらすぐに負けますよ。
△同歩▲同桂の後に何もしなければ
△3二金右~△5一角とされて次に△2四歩から桂馬が取られてしまいます。
これこそ『桂の高跳び歩の餌食』になってしまいますので、
追撃手段として、
▲6五歩△3二金右に▲1五歩。
△同歩に▲3五歩△同歩▲5五歩(第2図)。
第2図
これで▲1三歩からの攻め筋ができました。
歩も二つ目が手に入りそうなので攻めに困りません。
▲5五歩のところは▲2七銀~▲3八飛という筋もあります。
この局面の急所は角の強力な利きを逸らすことにありました。
序盤だからといって油断は禁物です!
第2問 vs角換わりその他
次はこの局面。後手が△2二銀と引いたところです。
後手の形は部分的にはよくある形で、
藤井聡太七段もこの形を持って指したことがあります。
本当は先手で使うのですが、局面の見やすさを考慮して先後反転しました。
それでは解説していきます。
まず直前の△2二銀は負けたら敗着級の一手です。
なぜでしょう?
考えるべきは△2二銀の後にどのような形を作ってくるか、です。
後手は△2二銀の次に△3三桂と跳ねて
△1二香~△1一飛を狙っているんです。
後手も局面の急所をとらえて、
右玉には地下鉄飛車
そう判断したわけですが手順前後してしまいました。
ある重要な手を指し忘れてしまったのです。
ではそれを咎める一手を探してみましょう。
△3三桂と跳ねた形の弱点を見つければすぐできますよ。
初段~二段の方はまず次の1手を考えてみましょう。
三段~四段の方はその先5手以上を、
五段以上の方は後手が△2二銀のところで正しく指した場合、
先手はどう指すのが良いか、まで考えましょう。
正解は▲5五歩!
これが局面の急所、盤上この一手です。
この手にも△3三桂と跳ねれば、
すかさず▲5六角と打ち、▲3五歩~▲3四歩を狙います。
ここまで読めれば有段の力は間違いなくあります。
ですがその先まで読めないと将棋は勝てません。
▲5五歩△3三桂▲5六角△4二金寄▲3五歩
△5二角▲3四歩(1)△同金▲同角△同角▲3五金(第1図)
(1)▲3六銀は△3五歩▲同銀△3六歩で、
▲3四歩から桂は取り返せるが後手の方が厚みがあるため先手不利。
第1図
後手は▲5六角に必死の抵抗をしてきますが、
これにはあっさり角金交換をして▲3五金。
以下、△5二角▲3四歩で3筋の制空権を握れば先手有利でしょう。
そのため、後手は△2二銀のところでは
先に△5四歩(第2図)と指さなければいけなかったのです。
第2図
これなら▲5五歩は阻止できるので、
今度こそ地下鉄飛車を完成させることができます。
▲5五歩から歩交換して▲5六角と打つこともできますが、
今度は△6五歩から角頭を狙われてダメです。
これに対し、どう指すべきかということですが、
主に正解は二つですね。
一つは▲8九飛から逆襲を狙って、後手の飛車を8筋に固定させる指し方。
もう一つは▲5八金~▲4八玉と後手の攻めを緩和する指し方。
どちらを選んでも互角の形勢です。
とにかくこの形は地下鉄飛車を食らったら危ない、
だから▲5五歩から警戒する、という思考に至るかどうかが勝負の分かれ目です。
局面の急所を見抜く力さえあれば、
この難所を乗り越えることができますよ!
第3問 vs角交換振り飛車
何を指しても良さそうな局面ですが、
実はすでに1手1手細かく考えないといけない中盤戦です。
なぜでしょう?
まず後手の次の狙いは何ですか?
当然、△2五歩ですよね。
▲同歩△同飛で、飛車交換は圧倒的に先手が不利。
かといって▲2六歩では△2二飛で作戦負けです。
先手は何でも指していいわけじゃないんです。
この△2五歩からの飛車交換に対応できる手が必要ですよ。
初段~二段の方はまず次の1手を考えましょう。
三段~四段の方はその先5手以上、考えましょう。
五段の方は詰むか詰まないかの局面まで考えましょう。
正直、五段以上の実力があれば次の手は指せて当然。
プロの先生に訊いたら、100人中100人が同じ手を指すはずです。
では答えに移りましょう。
正解は▲8五歩!
できましたでしょうか?
以下も指し進めてみましょう。
△2五歩▲同歩△同飛▲同飛△同桂▲8四歩
こうして玉頭を攻めるのがポイントです。
ここまで読めていれば局面の急所は
おおよそ理解できていると言って良いでしょう。
ではさらにその先も見ていきます。
△同歩▲2一飛△2六飛(1)▲3九金△2八歩
▲1一飛成△2九歩成▲8三歩(2)△同玉▲7五銀
△2九歩成▲8四銀△同玉▲8六香(第1図)
(1)△2七飛は▲3九金△3七桂成に▲1一飛成で空振り模様。
(2)▲4九金は△2八飛成で攻めが一手早くなる。
第1図
以下は玉をどこに逃げても▲6一竜で必至ですね。
この▲8六香まで読めれば五段クラスの力があると言えます。
ここまで見越したうえで、
▲8五歩の局面で△6四歩▲7五銀以下の変化を考えられていたら
軽く奨励会は入れますよ(笑)
でもそこまで読める方はそういないので、
まずはこの▲8五歩が局面の急所だということを
覚えていただければと思います。
最後に
このように局面の急所をとらえられるかどうかで、形勢がガラリと変わります。
有段者同士の対局では、なんでもないようなところで
差がついていた、という現象が起こりがちです。
「感覚的にここはこう」と局面の急所がわかれば良いのですが、
意識しても最初は難しいと思います。
なので、まずはこの記事で所々やったように理論立てて考えることが重要ですよ!
以上、『局面の急所を見極める』でした!
はには
自分は24で4段ですが、非常に参考になりました。
質問なのですが、最初の真部流対銀冠穴熊の問題で▲25歩△同歩▲同桂△24角▲65歩に解説されていた△32金右に代えて、△73桂とされた場合振り飛車側はどのように指せば良いのでしょうか。
素人質問で恐縮ですが、もしお答え頂けたらうれしいです。
えな
ご質問ありがとうございます。返信が遅くなり申し訳ありませんm(__)m
△73桂は遊び駒を活用する手で普通ならそう指したいところなのですが、この場合は▲9五角~▲7五歩が厳しいですね・・・
△9四歩が突いてあれば最善手です。
はには
ご回答いただきありがとうございます。
盤面の右側ばかりに目が行って、端角が見えていませんでした。
返信していただいた手順を盤に並べて、自分なりに検討していたのですが、▲95角△83飛▲75歩に△86歩と暴れられた時の振り飛車の指し方が分からないです。
厚かましい様ですが、こちらにもご回答いただけたら幸いです。
えな
ご質問ありがとうございます。
△8六歩には▲7四歩△8七歩成▲7五飛という読みでしたが、▲7四歩の瞬間に△8五飛が痛いかもしれませんね。
以下、▲7三角成△8七歩成▲5八飛△7八とで穴熊の暴力を受けてしまいそうです。
となると▲9五角は疑問手だったかもしれませんね。大変失礼しました。
代えて、▲6八飛はどうでしょうか。
(1)△4六角~△5七銀には▲4七金、(2)△8六歩~△7五歩には▲1五歩です。
(3)△3二金右には記事に書いたとおり、▲1五歩から攻めていきます。(その後の▲5五歩のところは▲2七銀の方が良いかもしれません)
ご検討宜しくお願い致します。
はには
とても丁寧にご回答いただきありがとうございます。
(1)の両取りを喰らっても、金を引いて以下△68銀に▲同角として戦えるという変化や(3)の▲27銀~▲26銀や▲38飛などで、上部を狙って行く手など非常に参考になりました。
(2)では▲15歩以下△76歩▲66角△86飛▲88歩が自然な進行なのではと愚考しましたが、そこで△15歩と手を戻されると、持ち歩が1枚だけでは振り飛車側から手が無いように思えます。
この局面では振り飛車どのように進めればよいのでしょうか。
また△76歩以下の私の読み筋に穴があり、もっと良い手があるのでしょうか。
奨励会も再開され、お忙しいところかと存じ上げますが、ご回答いただけたら幸いです。
えな
ご質問ありがとうございます。
△8六飛と走る変化ですが、おっしゃる通り▲8八歩だと攻めが切れてしまいます。
なので△8六飛には強く▲1四歩の取り込みが最善でしょう。
以下、(1)△8九飛成は▲1三歩成△同桂▲同桂成△同香▲同香成△同角▲1五桂で先手の攻めが刺さっています。
少々手強いのは(2)△1七歩ですが、▲同香△1六歩▲同香△1五歩▲同香△同角
▲1三歩成△同桂▲同桂成△同香に▲2五桂から香を取って▲1九香と設置すれば、その後に両取りの筋があるため先手の攻めがつながります。
手順が長くなってしまいましたので、盤に並べていただければと思います。
宜しくお願い致します。
はには
ご回答いただきありがとうございます。
教えていただいている立場でありながら、返信が遅れて申し訳ありません。
ご回答いただいた手順を盤に並べて見ましたが、確かにいくら銀冠穴熊でも角が直射した状況だと▲14歩と取り込まれては持たないですね。
△15歩に一度▲同香として13で清算して、▲25桂とする手が見えませんでした。
実戦だと反射的に歩を受けてしまいそうなので、勉強になりました。
手順をかなり遡ってしまうのですが、第一問の正解手の▲25歩に対して△32金右とされた場合、振り飛車はどのような方針で進めるのでしょうか。
また局面に関係のない質問で大変恐縮なのですが、脳内の将棋盤をより鮮明にイメージする方法はあるのでしょうか。
詰将棋を解いていると、小駒が中心の問題は割としっかりと読みきれている感触があるのですが、飛び道具や大駒が中心の問題だと、解いている途中で駒の利きが把握しきれていなかったり、解けていてもどこか読み抜けがありそうな感じがします。
もしよろしければ、ご回答いただけたら幸いです。
えな
ご質問ありがとうございます。
連日将棋の仕事があり、返信が遅れてしまいました。こちらこそ申し訳ありません。
実は▲2五歩に対して△3二金右は最善で、そこから▲3五歩と攻めるのですが難解です。
以下は▲3四歩~▲3五歩と位を取ってから、▲5八飛と回って一局でしょう。
今度は▲2四歩からの反撃がいつでもありますので、穴熊側も一筋縄ではいきません。
次に脳内の将棋盤を鮮明にイメージする方法ですが、これは実際に脳内将棋をたくさん指すのが効果的です。
脳内将棋をできるレベルの相手がいない場合は相手には普通に盤を使って指してもらい、自分だけは脳内で考える。
局面がわからなくなってきたら盤面を見て確認する、という方法が良いです。
その他にも棋譜並べの際になるべく符号だけで並べる方法などがありますね。
これらの作業を日常的にやっていけば、常に頭の中で9×9マス鮮明に浮かぶようになると思います。
しかし、脳内で長手数盤面を動かすのはプロでも難しいので(プロ同士の脳内将棋でも反則負けがよく起きます)、10手20手でも脳内で正しく駒を動かすことができれば十分でしょう。
それだけでも読みの精度は格段に違ってきますので。
棋力向上のお役に立てれば幸いです。
はには
ご回答いただきありがとうございます。
以前似たような局面で▲25歩と突いた手を無視されたことがあり、それを思い出したので質問させていただきました。
教えて頂いた脳内将棋盤を作る方法はまず棋譜並べをなるべく符号のみで行うという方法をやってみようと思います。
脳内将棋は今は相手をしてくれそうな方がいないので、大学に入ってから、そこの将棋部の方にお願いしてやってみようかなと思っています。
今まで強い方に質問させて頂く機会が無く、つい調子に乗って多くの質問をしてしまい大変失礼しました。
レベルが低いものや抽象的過ぎるものばかりだったかと存じますが、丁寧に回答していただきありがとうごございました。
えな
いえいえ。質問は歓迎していますのでまた何か気になった部分がありましたら、お気軽にコメントください。