将棋には何十種類もの戦法がありますが、
中にはすでに結論が出てしまい指されなくなった戦法もあります。
今回はそのような戦法を絶滅危惧戦法と呼び、減少の理由を解説していきたいと思います。
もしかしたら、あなたの一工夫で再び大流行するかもしれませんよ?
今回は居飛車編です!振り飛車編はまた後日投稿します。
矢倉 ▲4六銀・▲3七桂型
▲4六銀・▲3七桂型
この形は2015年まで矢倉の最前線として用いられていました。
将棋歴5年以上の方は懐かしく思うことでしょう。
あの有名な矢倉91手組なんかもここからできた定跡です。
先手の攻め、後手の受け、という構造になるのですが、
攻め切ることも受け切ることも難しく何年もの間、プロ間アマチュア間で研究されていました。
ではなぜこれが絶滅しかけているのか。
まずはこの局面をご覧ください。
ここで後手は今まで△5三銀と上がってきました。
しかし、棋士間の研究によって△4五歩が最有力とされるようになったのです。
△4五歩は昔からあった形ですが、後から▲4六歩で攻めの争点を与えてしまう、
という理由から長年指されていませんでした。
ですが2013年、▲4六歩には
△同歩▲同角△同角▲同銀△4七角▲3七銀に
△5五歩(第1図)が見つかり、先手不満という結論が下されます。
第1図
以下、▲同歩に△7五歩と突けば、あの狭い角を馬にすることができます。
おまけに次に△6四銀と出れば後手先攻の流れになりますね。
ということで先手は▲4六歩に代えて▲4八飛~▲4六歩と指すようになります。
しかしこれも2015年、▲4八飛の局面で△9四歩(第2図)という手が見つかり、
実は▲4六歩を突いても大したことがない、という結論が出されてしまったのです。
第2図
実際▲4六歩△同歩▲同角△7三桂で、これ以上の進軍ができません。
▲3七の銀が使えていないのが痛すぎるんですよね。
これにより、先手矢倉は激減しました。
そうして徐々に『矢倉は終わった』などと囁かれるようになったんです。
私もアマチュア時代から▲4六銀・▲3七桂型を愛用していたので、
この結論が打ち出された時はかなりショックでした。
ですが棋士の先生方は諦めてはいませんでした。
考えられた末に先手は5手目▲7七銀が最善ということに気づくんです。
それから矢倉は爆発的に増えました。
5手目▲7七銀
現代矢倉について知りたい方はぜひこちらをご参照ください。
矢倉が復活した理由と現在流行りの形についてまとめています。
もし▲4六銀・▲3七桂型を復活させるなら、
△4五歩への対応策を出すor△4三歩の状態で▲4六銀・▲3七桂型を作る、
など新たな工夫がいるでしょうね。
相掛かり 塚田スペシャル
塚田スペシャル
升田幸三賞特別賞を受賞した戦法で、
当時は後手相掛かりを避ける方も多かったそうです。
発案した塚田九段はこの塚田スペシャルで公式戦22連勝を達成しました。
この戦法は飛車を高い場所で維持することによって、
1筋を攻めたり、後手の駒組をけん制したりするのが狙いです。
これを咎めるのは非常に難しく、
もし対抗策がなければ相掛かりという戦法は完全に消滅していたことでしょう。
ですがそんな中、2つの対抗手段が生まれてしまいます。
ここでは最後の決定打になった方をご紹介させていただきます。
谷川先生の自陣飛車
上の図から△同歩▲同飛△8二飛▲6四飛(1)
△8八飛成▲6一飛成(2)△同銀▲8八銀とした局面。
ここで△8二飛という新手が現れるんです。
先手は駒損しているのでなんとかひと暴れしたいところですが、
なんと隙が一つもありません。
後手からは次に△2八歩、△3四歩などの狙いが残っていて、これを同時に防ぐことは不可能。
そういった経緯があり、先手の塚田スペシャルは衰退していったのです。
現代版塚田スペシャル
それでも塚田先生は諦めていませんでした。
先ほどの決定打が出てから時は20年以上経ちましたが、
また新たな塚田スペシャルが流行り始めているのです。
その形がこちら。
現代版塚田スペシャル
▲3五歩△同歩▲3七桂と早めに攻撃形を作るのがポイントです。
ここから▲1五歩△同歩▲1三歩、もしくは▲4五桂~▲5六飛など
様々な攻め筋があり、後手が受け切るのは容易ではありません。
実際、塚田九段はこの形を用いて勝利を収めています。
指すには相当な用意がいるので、使う棋士はあまりいませんね・・・
ですが逆に考えれば未開拓な部分が多いということなので、
研究のしがいがあります。
この機会にぜひ研究してみてはいかがでしょうか?
横歩取り △2三歩型
△2三歩型
△3三桂型や中座飛車辺りは現在も少ないながら公式戦で現れるのですが、
△2三歩型はすっかり消えてしまいました。
最後に公式戦に現れたのは2016年です。
まあもちろん、この形が後手良しなら
『横歩取り』なんていう戦法は消滅してしまいますが(笑)
それでも昭和後期~平成初期の間は横歩取り△2三歩型がよく指されていました。
形勢もそこまで悪くならないので(-300ほど)、青野流を食らいたくない、
という方は研究してみるといいかもしれません。
△2三歩の狙いは飛車を取ることです。
以下、▲3四飛△8八角成▲同銀△2五角(第1図)と進み、
第1図
ここから
- ・▲3二飛成
- ・▲3六飛
の二択になります。
結論から言いますと、どちらを選んでも先手良しですね。
後手は飛車は取れますが、先手の低い陣形ゆえに飛車を使いどころがありません。
まずは▲3二飛成の変化から見ていきましょうか。
第1図から
▲3二飛成△同銀(1)▲3八銀△3三銀▲1六歩(2)(第2図)
(1)△同飛もある。直近の公式戦は△同飛の方が多い。
(2)最有力手。▲7七銀もあるが、それだと互角。
第2図
次の狙いは▲3五金△1四角▲1五歩。
それがわかっていても受ける手が難しいんですよね。
△4四歩は▲6五角が、△4四銀は▲5六角が激痛です。
△2四歩には▲3一金!という手があって、
△2二飛打には▲2三歩~▲3二角で痺れます。
定跡は第2図から△1四歩▲3五金△1六角と続きますが、
なんだかパッとしない攻め方ですよね。
▲3五金のところは▲6八玉もあるくらいで、
仮にそう待たれても後手は手がありません。
先手は慎重に指す必要がありますが、
後手の攻め筋も限られているので勝ちやすいでしょう。
後手が互角以上に戦うにはどこかで変化する必要がありますね。
では次の▲3六飛を見ていきます。
第1図から
▲3六飛△同角▲同歩△2七飛▲3八銀△2五飛成(1)
▲7七銀△6二銀(2)▲2七角(第3図)
(1)△2八飛成は▲5五角。
(2)△3六竜は▲1八角。
第3図
最後の▲2七角が大事な一手です。
こうして後手に歩を取らせないようにして▲3七桂~▲4六歩と駒を盛り上げる。
この後はじっくりとした駒組が始まります。
先手は飛車角交換ですが一歩得が大きいという見方ですね。
後手も指しづらいとは言われていますが、実際指せば一局になるでしょう。
△2三歩型は
- ・▲3二飛成の場合は角が助かれば後手不満なし
- ・▲3六飛の場合は歩切れを解消し、すべての駒を活用すれば後手不満なし
だと思っています。
これらの条件を満たすような手順があればこの形は完全に復活しますよ。
以前は「▲3二飛成&▲3六飛の対策をするくらいなら、普通の横歩取りをやる」
という方が多くいましたが、青野流が牙をむいているこのご時世、
△2三歩型を研究してみてもいいかもしれませんね。
ちなみに普通の横歩取りを指したいという方は、
こちらの記事で横歩取りの歩みと最新形についてまとめているのでぜひ!
横歩取り激減の理由
最後に
今回ご紹介した戦法は絶滅したわけではありません。
ほんの少しの工夫でもあれば再び流行ることもあるでしょう。
もしかしたらその工夫を見つけるのはあなたかもしれません。
将棋の可能性は無限大です。
これは終わった戦法だからと、切り捨てないことも大事ですよ!
以上、将棋の絶滅危惧戦法でした!